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シリコンバレー
Bad BloodはJohn Carreyrouさんによって2018年に刊行された、シリコンバレーの新興企業であったTheranos(セラノス)社に関するノンフィクションです。
セラノスはスタンフォード大学で化学工学を専攻していた、Elizabeth Holmesが、在学中に思いついた”指先からわずかの血液を採血しただけで、数百種類の疾患可能性を検査できる装置”を作ることを目的として、大学を中退して創業したスタートアップ企業です。
彼女はこの夢の装置を"Edison"と名付け、多くの出資者と巨大な含み益を得ることに成功しました。
しかしながら、セラノスは本書に記された多くの疑惑のため、2018年に解散、彼女は詐欺罪で告発される結果になりました。
Bad Blood
Secrets and Lies in a
Silicon Valley Startup
John Carreyrou
この裁判が2021年から始まり、アメリカで再び大きな話題となっています。
イメージ戦略
実績がない新興企業であったのにもかかわらず、セラノス社は以下のような政治と軍の有力者を幹部に登用することで高い評価を得て潤沢な資金を得ることができました。
- ウィリアム・ペリー元国防長官
- ヘンリー・キッシンジャー元国務長官
- ジム・マティス元海兵隊大将
彼女はあこがれの的であるスティーブ・ジョブスを強く意識して黒いタートルネックを好んで着用、またセラノスの社屋はかつてFacebookが使用していたビルであることから、成功者へのあこがれが感じ取れます。
Deep Voice
彼女の写真を一目見ると、まずその青い大きな瞳に惹きつられますが、動画を見ると低い声(Deep Voice)に驚かされます。
この声は本当の声ではなく、ビジネスの説得力を高めるため、シリコンバレーで生き残るためあえて低い声で話しているという話もありますが真相は分かりません。
声をわざと低くしていることが真実とすると、その徹底ぶりにはある意味関心させられます。
偽りの成功
巧みな戦略により、セラノス社は大手ドラッグストアであるWalgreenの店内で検査を受け付けて診断を行うというビジネス契約を結ぶことに成功、ドラッグストア内にセラノスの検査受付が設置されました。
しかしながら、Edisonはその時点でも未完成であり、エンジニア、研究員は必死に働きますが、いつまでたってもうまくいきません。
結局、検査にはEdisonだけではなく、市販の血液検査装置をひそかに使用することになります。
誤った検査結果のため、健康な人にも必要のない治療や投薬をされる結果となりました。
内部告発しようとした人もいましたが、嘘を暴こうとした人物は、セラノスが雇った超一流弁護士によって阻止、脅迫に近い行為をされる場合もあったため、ほとんどの関係者は口をつぐみました。
崩壊
Elizabeth Holmesの人事は結局彼女の好き嫌い、利用できるかできないかが判断基準となり、恋人であるRamesh "Sunny" BalwaniをCOOに指名しました。
Sunnyは医療に関する仕事経験がないのにもかかわらず自らの権力を悪用、従業員の行動に常に目を光らせ、少しでも疑問を持つ者、怪しい動きをした者に徹底的なパワハラをし、容赦なく解雇していました。
彼らが社員に求めたのは、「生産性の高い仕事をしているかどうか」ではなく、「職場に長時間いるかどうか」という、いわゆるブラック企業的な考えです。
告発側は彼らの弁護士が強すぎるためはじめはあきらめたふりをして、セラノスが墓穴を掘ることを待つ戦略をとります。
結局アメリカ食品医薬局(FDA)の査察を切り抜けることができず、会社は崩壊の道に向かいます。
まとめ
セラノスは自由で上下関係がないイメージがあるシリコンバレーのスタートアップ企業であっても、トップに立つ人物に問題がある、巨大な利益がかかわってくる、大物が支援するといった状態になると、とんでもない会社になってしまう例となりました。
Bad Bloodはこのようなことが映画、ドラマのではなく本当にあったことを知ることできる非常に興味深く読み応えのあるノンフィクションです。
嘘でもあまりにも大きな嘘は信じてしまうことがあります。
イメージにも騙されていけませんね。